行政との連携
東京都行政書士会府中支部 支部長
東京行政書士政治連盟府中支部 支部長
藤後 淳一
皆さまにおかれましては、益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。また日頃より府中支部および政治連盟府中支部の活動にご理解、ご協力いただいていることに感謝申し上げます。
既にご承知のこととは思いますが、今年度より多摩市において養育費確保支援事業が行われることになりました。この事業は、多摩市に在住するひとり親等のうち、所定の要件を満たす方を対象に、養育費の取り決めに関する公正証書作成に要する費用、養育費に関する家庭裁判所の調停又は裁判の手続きに要した費用を市が支援するというものです。以前にお知らせしたことではございますが、本事業は、当支部が多摩市に要望を行ったことを一つのきっかけとして実現したものです。昨年、石原相談役、黒津公証人と多摩市を訪問し、阿部市長に直接お話をさせていただきました。
ちなみに、稲城市でも同様の要望をさせていただきました。稲城市では来年度からの事業実施に向けて準備が行われています。両市ともに直ぐに要望内容の意義を理解され、快く準備に取りかかって下さりました。
私にとって、本件は行政機関との連携することの意義と大切さ、行政書士が担うことができる役割について改めて考えることの契機となりました。以下、少し長くなりますが、各市に要望させていただいた文書から抜粋して、皆さまとも本事業の意義を共有させていただきたいと思います。
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厚生労働省の調査によると、1年間の離婚件数は約20万件に上り、このうち未成年者の子がいる離婚は、全体の60%を占めています。また離婚の種類という点では、裁判機関を通じた裁判離婚に比べ、当事者どうしの話し合いによる協議離婚が圧倒的多数を占めています。そして、この協議離婚においては、離婚時に離婚後についての取り決めをしていない、また取り決めはしていても、文書化をしていない離婚が半数以上にもなるといわれています。
離婚時の収入は夫が多いのが通例ですが、子がある夫婦の離婚の場合、妻が子の養育、監護権を持ち、子を育てていくケースが一般的です。つまり収入において劣後する側が、長期に渡って少なくない支出を伴う養育を担うことになるといえます。また、養育費の取り決めをしていても、取り決めが口約束や私文書である場合は、債務者(養育費等の支払い義務者)が約束通りに養育費を支払わなくなった場合、この債務者に養育費を支払わせることは簡単ではありません。離婚時に養育費の取り決めをしていないことや取り決めを文書化していないこと、また取り決めが内容の不十分な私文書で作成されていることは、シングルペアレントが経済的困窮と近しくなる由縁になるといえます。
近年、日本において「貧困」という言葉が使われることは珍しくなくなっています。貧困は様々な問題を孕むものですが、中でも子の貧困については、将来長期に渡り、貧困や格差の連鎖その他の様々な問題につながり得るという点で深刻な事態と言えます。このこと以前に、そもそも何の落ち度も罪もない子が、その生まれた環境により十分な養育、教育を受けられない生活を強いられ、将来への可能性が制限されることそのものが非常に痛ましいことです。離婚時に子の養育費について十分な取り決めがなされていないことは、子の貧困及び将来の社会における不安要素に繋がりうる要因といっても過言ではないと考えます。
子の養育費を確保するための最も効果的な方法は、まず養育費に関する取り決めを行うこと、そしてこの取り決めを証拠力の高い公文書である公正証書にしておくこと、さらに公正証書による協議書上に強制執行認諾条項を設けておくことです。このように公正証書を作成しておくことは、子の養育費確保の観点から多くのメリットがあります。以下主なものを挙げます。
・通常の文書とは異なり、公正証書は改ざん、破棄・隠匿、紛失の心配がない。
・強制執行認諾条項付き証書にしておくことで、強制執行をする際の裁判手続きを簡略化でできる。
・債務者の財産に関して、財産開示手続き、第三者からの情報取得手続きを利用できるようになる。
・効力の高い文書で取り決めをしたことが、債務者に対し養育費の約束通りの支払いを促す。
反対に、離婚時の取り決めを公正証書にすることのデメリットはほとんどありませんが、強いて挙げるとすると、前提として夫婦間で取り決めの話し合いができなければならないこと、そして公正証書作成に手数料がかかることです。この公正証書作成手数料は、決して大きな金額ではないのですが、子を養育することになる側に経済的な余裕がない場合、手数料の存在が、公正証書の作成を選択しないことの理由になることが考えられます。このため、貴市において、離婚する夫婦に対し、子の養育費確保等のための公正証書作成手数料のご支援をご検討いただきたいと思っております。
離婚時に取り決めをしておくこと、さらに取り決めを証明力の高い公正証書にしておくことは、子を養育することになったシングルペアレントの生活の困窮を予防することになります。養育費に関する取り決めを行うことを促し、この取り決めの公正証書化を推奨、支援することは、子の将来に資する取り組みとなり、貴市運営におかれましても、地域社会にとっても有意義な取り組みになると考えます。東京都行政書士会府中支部は、官公署に提出する書類、権利義務又は事実証明に関する書類を作成する国家資格者として、また「身近な街の法律家」として、子たちの日々の生活と未来、地域の安定と健やかな成長のために、貴市が養育費確保のための公正証書作成支援に取り組まれることを要望致します。
—————————– 以上、当支部の要望書より抜粋
行政による取り組みにより、会員の皆様への離婚に関する相談が増えるかもしれません。相談を受けた際には良いアドバイスをして下さいますようお願い申し上げます。